MCPとA2Aの普及を見て、「人間がウェブサイトを開く必要はなくなり、すべてAIエージェントが処理する」と考えるのは早い。
公式ドキュメント上、MCPはAIアプリケーションを外部のデータ、ツール、ワークフローへ接続する標準である。A2Aは、異なる事業者やフレームワークで作られたAIエージェント同士が通信し、仕事を委任し、結果を共有するための標準である。
二つのプロトコルが担うのは、人間向けウェブの置き換えではない。これまで人間向け画面の裏側に閉じ込められていた情報と機能を、機械が利用できる形で分離することである。
MCPとA2Aは何を分けるのか
両者は似た文脈で語られるが、役割が異なる。
| 標準 | 主な接続 | 役割 |
|---|---|---|
| MCP | エージェントとツール・データ | 情報取得や操作を標準化する |
| A2A | エージェントと別のエージェント | 発見、委任、協調を標準化する |
例えば調査エージェントが、MCPを使ってニュースデータベースとGitHubへ接続し、A2Aを使って法務確認エージェントや翻訳エージェントへ作業を委任する構成が考えられる。
ここで重要なのは、利用者が個別のデータベース画面やGitHub画面をすべて操作しなくても、作業が進む点である。一方、結果の根拠を確認するときには、依然として人間が読める原文、履歴、説明画面が必要になる。
ウェブは「読む層」と「実行する層」に分かれる
従来のウェブページは、情報表示、操作、認証、説明、広告、法的表示を一つの画面へ集めてきた。人間がブラウザを使うことが共通前提だったからである。
エージェントが利用者の代わりに作業する場合、この一体構造は効率が悪い。機械は装飾されたボタンの位置を推測するより、利用可能な操作、必要な入力、権限、結果の形式を構造化された形で受け取る方がよい。
その結果、ウェブサービスは次の二層へ分かれていく。
人間向けの信頼層
- 本文を読み、文脈を理解する
- 運営者と編集責任を確認する
- 訂正履歴や利用規約を確認する
- 結果が妥当か判断する
- 例外や曖昧さを理解する
エージェント向けの実行層
- データを検索する
- 条件を指定して取得する
- 操作可能な機能を発見する
- 権限の範囲内で処理する
- 結果と状態を構造化して返す
この二層は競合しない。機械向けの実行層だけでは、読者が情報源を評価できない。人間向けページだけでは、エージェントが安定して情報を利用できない。
なぜウェブサイトは残るのか
AIが要約を返すなら、原文ページへのアクセスは減る可能性がある。それでもウェブサイトには少なくとも四つの役割が残る。
1. 正式な原本
エージェントの回答は、その時点の複数情報を合成した二次生成物である。どの表現が発行者自身のものかを確定するには、正規URLを持つ原本が必要になる。
2. 責任主体の表示
情報が誤っていた場合、誰が訂正するのかはプロトコルだけでは決まらない。運営者、著者、編集方針、連絡先を確認できる公開ページが必要になる。
3. 複雑な文脈
構造化データは明確な項目の取得に強いが、例外、留保、価値判断、反対意見などの文脈を完全には表しにくい。長文の説明や資料を人間が確認する場は残る。
4. 公開性
MCPやA2Aの接続先が認証を要求する場合、一般の利用者が内容を監視できない可能性がある。公共的情報では、誰でも確認できる公開面が重要である。
逆に、HTMLだけでは不十分になる
ウェブサイトが残るからといって、従来通りHTMLだけを作ればよいわけではない。
エージェントが画面を解析して情報を得る方法は、表示変更に弱く、誤読も起こる。日付、価格、版番号、状態、利用条件などは、本文に書くだけでなく機械が区別できる形で提供する必要がある。
ニュースメディアの場合、最低限次の層が必要になる。
| 層 | 主な形式 | 目的 |
|---|---|---|
| 原本 | HTML記事 | 人間が内容と責任を確認する |
| 意味 | JSON-LD | 記事、著者、日付、発行者を表す |
| 更新通知 | RSS・サイトマップ | 新着と変更を発見させる |
| 検索 | JSONインデックス | 記事候補を効率的に探す |
| 操作 | API・MCP | 条件付き取得や処理を実行する |
| 協調 | A2A | 専門エージェントへ作業を委任する |
すべてを最初から実装する必要はない。重要なのは、各層の役割を混同しないことだ。
小規模サイトがMCPを急ぐべきでない理由
新しいプロトコルが注目されると、接続対応そのものが目的になりやすい。しかし、記事が少なく、更新頻度が低く、権限管理も不要なサイトでは、MCPサーバーを作る利益は限定的である。
静的サイトでも、次が整っていれば多くの機械利用に対応できる。
- 安定したURL
- 正しい見出し構造
- 構造化データ
- RSS
- サイトマップ
- 検索用JSON
- 明確な利用条件
- 訂正履歴
MCPが必要になるのは、全文検索、購読者限定データ、複数条件による取得、外部システムへの操作など、単純な公開ページでは表現しにくい能力を提供するときである。
機械インターフェースの危険性
エージェント向け接続は便利だが、閲覧だけだったウェブを実行環境へ変える。
記事を読む処理と、メールを送る処理、データを削除する処理、決済する処理が同じエージェントへ接続されると、誤った指示の影響範囲は大きくなる。外部コンテンツに埋め込まれた指示、過剰な権限、接続先のなりすまし、監査不能な委任などを考慮しなければならない。
したがって、実行層には次が必要になる。
- 最小権限
- 操作前の確認
- 接続先の認証
- 入出力の記録
- 取り消し可能性
- 人間へ戻す条件
「AIが自律的に動く」ことを目標にするより、どの時点で人間の判断が必要かを明示する方が、実運用では重要である。
AI CHANGE DESKの現実的な順序
このサイトでは、当面次の順序が妥当である。
- HTML記事を信頼できる原本として整える
- JSON-LD、RSS、サイトマップを維持する
- 記事検索用JSONを安定させる
- 出典、確度、更新履歴を構造化する
- 利用規約と機械取得方針を決める
- 記事数と利用需要が増えた段階でMCPを検討する
- 複数の専門処理が必要になった場合にA2Aを検討する
この順序なら、新技術へ対応しながら、運営負荷とセキュリティリスクを増やしすぎずに済む。
結論
MCPとA2Aはウェブサイトを消す技術ではない。人間にしか使えなかったウェブサービスを、機械が利用できる能力へ分解する技術である。
その結果、ウェブは二層化する。人間向けページは信頼、説明、責任、原本を担い、機械向けインターフェースは検索、取得、実行、協調を担う。
これから重要になるのは、どちらか一方を選ぶことではない。同じ情報と機能を、人間にも機械にも誤解されにくい形で提供し、両者の間で出典と権限を失わない設計である。